シリンドリカルレンズとは
レーザー加工機や半導体製造装置において「ビームの形状を線状に整えたい」「特定の方向にのみ光を集束させたい」といった課題に直面することがあります。このような場合に有効なのが、シリンドリカルレンズです。
シリンドリカルレンズの基本原理
球面レンズとの形状の違い
シリンドリカルレンズは、その名の通り円筒状(円柱状)の形状を持つレンズです。球面レンズが球体の一部を切り取った形状であるのに対し、シリンドリカルレンズは円筒の一部を切り取った形状をしています。最大の特徴は、レンズ面の一方向のみに曲率を持ち、それに交差する方向には曲率を持たない点です。
集光特性の違い
球面レンズが入射光を一点に集光するのに対し、シリンドリカルレンズは光を直線状(ライン状)に集光します。この特性により、特定方向のみにビーム整形が必要な光学系において重要な役割を果たします。たとえば、円形のレーザービームを楕円形や線状に変換する際に用いられます。
光学系における主要な機能と役割
ビーム整形機能
レーザー加工や光通信の分野では、レーザービームの断面形状を用途に応じて最適化する必要があります。シリンドリカルレンズは、一方向のみの集光特性を活かして、円形ビームを楕円形や線状に変換し、加工効率や伝送効率の向上に寄与します。
アスペクト比変換
映像分野においては、アナモルフィックレンズとして応用されます。シネマ用カメラレンズなどに組み込まれ、撮影時の映像アスペクト比を変換することで、ワイドスクリーン映像の撮影を可能にします。
非点収差の補正
光学系において発生する非点収差を補正する目的でも使用されます。特定の方向にのみ焦点距離を調整することで、光学系全体の結像性能を向上させることが可能です。
シリンドリカルレンズ選定時の重要スペック
母線ズレ精度とは
シリンドリカルレンズの性能を左右する重要な要素に「母線ズレ精度」があります。これは球面レンズにおける偏芯に相当する概念ですが、シリンドリカルレンズではレンズの中心原点がライン状に存在するため、精度管理がより複雑になります。
母線ズレの3要素:
- シフトズレ:レンズ中心軸の平行移動によるズレ
- チルトズレ:レンズ面の傾きによるズレ
- Z方向の傾き:光軸方向の回転によるズレ
これらの要素はそれぞれが光学系のアライメント精度に影響を与えます。高精度な光学系を構築する際には、これらを総合的に評価する必要があります。
焦点距離と開口径
用途に応じて適切な焦点距離と開口径を選定することが重要です。焦点距離はビームの集光度合いを決定し、開口径は光の取り込み量や分解能に影響します。レーザー加工では短焦点で高開口径、光通信では長焦点で小開口径が選ばれることが多い傾向にあります。
材質と波長対応
使用する波長帯に応じて、適切なガラス材質を選定する必要があります。紫外線(UV)領域ではCaF2や合成石英、可視光から近赤外ではBK7などの光学ガラスが一般的です。半導体露光装置用には、特にUV領域での透過率と耐久性が求められます。
形状バリエーションと複合レンズ
シリンドリカルレンズは、基本形状だけでなく、用途に応じた複合形状も製作可能です。たとえば、シリンドリカル面と球面を組み合わせることで、両方向での異なる集光特性を実現できます。また、シリンドリカル面とプリズムを一体化することで、ビーム整形と光路偏向を同時に行うことも可能です。
小径のロッドレンズ(円柱形レンズ)も、シリンドリカルレンズの一種として、光ファイバーとの結合や小型光学系において活用されています。
夏目光学のシリンドリカルレンズ
夏目光学では、半導体露光装置、レーザー加工機、画像アスペクト比変換など多彩な分野で使用されるシリンドリカルレンズを提供しています。UV露光用の高精度レンズから、リーズナブルなビームコリメーション用レンズまで、お客様のご要望に応じて幅広く対応いたします。
基本的な円柱形の小径ロッドレンズはもちろん、シリンドリカル面と球面を組み合わせた複合レンズや、シリンドリカル面とプリズムを一体化した複合形状レンズの製作も可能です。高精度が要求される用途から、コストパフォーマンスを重視した用途まで、お客様の光学系設計に最適なソリューションをご提案いたします。
| レーザ用途 | 撮像用途 | ||||
| アプリケーション | ホモジナイザー 均一照明光学系 |
均一ラインビーム 成形 |
ビームコリメーション レーザ成形、 SAC |
ラインビーム 成形 |
アナモルフィック光学系シネマスコープ用 |
| レンズ名称 | 長尺・大型 シリンドリカルレンズ |
小径 シリンドリカルレンズ |
ロッドレンズ | 丸型・異形 シリンドリカルレンズ |
|
| サイズ(mm) | 1 – 450mm | 最小径:0.4mm 最大長:200mm |
1 – 150mm | ||
| 材質 | 一般光学ガラス、合成石英、低熱膨張ガラス、Si、CaF₂ | ||||
| 曲率半径範囲 | 凹(Cc):1.4 – 10,000mm 凸(Cx):0.3 – 10,000mm |
— | 凹(Cc) 1.4 – 10,000mm 凸(Cx) 0.3 – 10,000mm |
||
| 曲率半径公差 | < 0.5% | < 0.5% | < 0.5% | 直径公差 ±0.01mm |
< 0.1mm |
| 面精度 | 標準(断面解析) 50mm以下:PV≦λ/2 50 – 100mm:PV≦λ 100 – 150mm:PV≦2λ 高精度(全面解析) 100mm以下:PVr≦λ/10 100 – 150mm:PVr≦λ/4 |
— | |||
| 表面粗さ | < RMS 1nm | < RMS 1nm | < RMS 5nm | < RMS 5nm | < RMS 1.5nm |
| 偏芯(母線ズレ量) | 標準:±0.05mm 高精度:±0.01mm |
±0.01mm | |||
| 外観精度(S/D) | ISO10110-7/MIL-0-13830に対応可能 | ||||
| その他 | 精密平面研削版により、シャープエッジ加工可能 (チッピング20μ以下) |
スティッチング計測により、大口径レンズの全面面精度解析及び、高精度修正加工が可能 | 試作1個から量産まで対応可能 | 試作1個から量産まで対応可能 | 精密偏芯接合による、ダブレット・トリプレット対応可能 |