カセグレン光学系とは?
カセグレン光学系は、反射望遠鏡の基本形式の一つであり、主鏡と副鏡の組み合わせによって、長い焦点距離を維持しつつ、システム全体をコンパクトにまとめることを可能にした光学系です。その優れた性能から、天体観測機器だけでなく、様々な産業用途に応用されています。
1. カセグレン光学系の基本構造と光路
カセグレン光学系は、17世紀にフランスのローラン・カセグレンによって考案されました。その基本的な構造は以下の二つの鏡から成り立っています。
- 主鏡:凹面鏡であり、入射光を反射・集光させる主たる役割を担います。中央には穴が開けられています。
- 副鏡:主鏡の前に配置された凸面鏡であり、主鏡で集光された光を再度反射させ、主鏡中央の開口部へと導きます。
この構造により、光路が折り返されるため、望遠鏡全体の長さ(鏡筒長)を焦点距離よりも大幅に短縮できます。取り出された光は、主鏡の後方に配置された観測装置や検出器に収束します。
2. カセグレン光学系の主な特徴と利点
カセグレン光学系の採用には、いくつかの明確な特徴と利点があります。
高い焦点距離とコンパクト性の両立
副鏡が凸面であるため、望遠鏡としての合成焦点距離は主鏡単体の焦点距離の3~4倍にもなります。これにより、高い空間分解能や倍率が得られます。同時に、鏡筒長は短く保たれるため、システム全体がコンパクトになります。
高い対称性と焦点調整の容易さ
主鏡の中央から光を取り出す構造により、観測装置を光軸上に配置できます。これはニュートン式のように光軸外に副鏡を配置する必要がないため、光学系の対称性や剛性を保ちやすいという利点があります。また、主鏡と副鏡の間隔を調整するだけで焦点位置の調整が容易に行えます。
3. カセグレン式の派生型と応用分野
カセグレン光学系は、鏡面の形状や補正素子の有無によって様々な派生型が開発され、それぞれの用途に応じて使い分けられています。
主な派生型
- リッチー・クレチアン式:主鏡と副鏡に双曲面を採用し、特に収差(特にコマ収差)を高度に除去した形式。ハッブル宇宙望遠鏡など、大規模な天文台で多用される。
- シュミットカセグレン式・マクストフカセグレン式:主鏡の前にシュミット補正板やメニスカスレンズを挿入し、反射屈折望遠鏡とした形式。より広い視野と高い集光力を実現する。
応用分野
この光学系は、天体望遠鏡以外にも、そのコンパクトさと高い焦点距離という特徴から、工業用の外観検査、医療用の内視鏡など、高い光学性能が求められる様々な精密機器に応用されています。
4. 製作・調整の課題と留意点
カセグレン光学系は優れた性能を持つ一方で、製作と調整には高度な技術が必要です。
- 遮蔽と有効開口比:副鏡が主鏡の一部を遮蔽するため、有効開口比が低下し、望遠鏡の明るさや視野角が制限されるという欠点があります。
- 高い製作精度:特に派生型では、複雑な非球面形状を持つ鏡が使われるため、製作やアライメント(光軸合わせ)には極めて高度な技術や知識が必要です。
カセグレン光学系はその長所と短所を理解し、目的(例:広視野、高倍率、収差除去)や条件に応じて最適な方式を選択することが重要です。