フッ化カルシウム(フッかカルシウム、英語: Calcium Fluoride, 化学式: CaF₂)は、カルシウム(Ca)とフッ素(F)が結合してできた化合物です。この物質は、自然界では蛍石(フローライト)という鉱物として広く存在しています。
CaF₂と蛍石の関係
- CaF₂(フッ化カルシウム): これは、純粋な化学物質としてのフッ化カルシウムを指し、フッ素原子2個とカルシウム原子1個が結合した化合物の化学式およびその物質名です。
- 蛍石(フローライト): これは、CaF₂を主成分とする天然の鉱物の鉱物名です。天然の蛍石には、わずかながら他の不純物(例: 希土類元素、他の化合物など)が含まれていることがあり、これらの不純物によって紫、緑、青、黄などさまざまな美しい色を呈します。
このように、蛍石は天然の産物であり、CaF₂はその化学的な組成を表すものと理解できます。特に光学レンズなどに使われるフッ化カルシウムは、天然の蛍石から不純物を取り除くプロセスに加え、人工的に高純度で結晶を成長させたものが主流です。 これを「人工蛍石」と呼ぶこともあり、極めて高い透明度と均一な光学特性を実現するために不可欠な製造プロセスです。
フッ化カルシウムは、水にほとんど溶けず、比較的化学的に安定した物質です。
フッ化カルシウムの主要な特徴
フッ化カルシウムは、特に光学分野において非常にユニークで価値のある性質を持っています。
- 広範囲な光透過性(透明性): 可視光だけでなく、紫外線(UV)から赤外線(IR)に至るまで、非常に広い波長範囲の光を高い効率で透過します。これは、多くの他の物質が吸収してしまうような特定の波長の光も透過できることを意味します。
- 低い屈折率と分散: 光を曲げる度合いを示す屈折率が低い特性を持ちます。さらに重要なのは、光の波長(色)によって屈折率が異なる現象である分散が極めて小さいことです。この「低分散」という特性により、レンズを通して見た際に生じる色のズレ(色収差)をほとんど発生させずに、非常にクリアな像を結ぶことが可能になります。
- 物理的・化学的安定性: 比較的硬く、熱に強く、多くの化学薬品に対しても安定しています。酸やアルカリにも侵されにくい性質を持つため、多様な環境下での使用に適しています。
主な用途
フッ化カルシウムの優れた特性は、さまざまな分野で活用されています。
- 光学レンズ: フッ化カルシウムの広い光透過性と極めて低い分散特性は、精密な光学機器のレンズに不可欠な材料となっています。
- 高級カメラレンズ・天体望遠鏡: 色収差を抑制し、高解像度でシャープな画像を実現するために用いられます。
- 半導体露光装置: 特に193nm(ArFエキシマレーザー)や248nm(KrFエキシマレーザー)といった深紫外線(DUV)領域の光を使用する最先端の半導体製造において、フッ化カルシウム製のレンズは不可欠です。これらの短い波長の光を効率よく透過し、かつナノレベルの非常に微細な回路パターンを正確に転写するために、フッ化カルシウムの低分散性が極めて重要になります。